標題の論文を執筆し、2022年10月30日に刊行された『日本比較政治学会年報』第24号に掲載していただきました。
同号は、2021年度の日本比較政治学会研究大会(2021年6月にオンライン開催)での共通論題「クライエンテリズムをめぐる比較政治学」での報告者による論文と公募論文からなる特集号です。
わたしは、研究大会で報告させていただき、その内容に基づき書いたのが今回の論文です。
研究大会での報告をお誘いくださった、本セッションの企画者である馬場香織さん、討論者をお務め下さった中田瑞穂さん、稗田健志さん、セッション報告者としてご一緒した建林正彦さん、鷲田任邦さん、東島雅昌さんに御礼申し上げます。この機会に加えていただくことがなかったら、クライエンテリズム概念を使ってコートジボワール政治史の再検討を試みるということはなかったと思います。貴重な機会をありがとうございます。
大会当日に質問とコメントをお寄せ下さった会員の方々にも御礼申し上げます。当日セッション中、Zoom参加者リストにお名前を発見し、セッション後にこちらからコメントをお願いしたことに快く応答下さった皆さまにも感謝申し上げます。
刊行元のミネルヴァ書房さんのページにて、本特集の掲載論文と執筆者を確認できます。ご一読いただけるとうれしいです。よろしくお願いします〜
https://www.minervashobo.co.jp/book/b611319.html
所属学会の出版物に文章を載せてもらえるのはうれしいもので、それが論文ともなればさらにうれしみ増大ですが、同時に身の引き締まる気持ちがするのもこの上ないです。
本特集のもととなった2021年度の日本比較政治学会研究大会の共通論題セッションの概要は以下のプログラムのページにてご覧いただけます。
論文の概要をご紹介いたしますと、わたしの論文では、コートジボワールの独立から30年続いた個人独裁政権下で、統治者によるクライエンテリズムと機能する官僚制とが一定程度両立したという見立てを行い、その背景について分析しています。
「時代と政治体制を超えて存続するクライエンテリズムの強靭さ」に注目するというのが、研究大会の共通論題・本号の特集の趣旨なのですが、その中でこの論文は、サハラ以南アフリカ、一党制、権威主義体制といったカテゴリーに該当する事例を取り上げた論文となります。
自分なりに考えたこの論文のツボについて少し詳しく書きたいと思います。
サハラ以南アフリカの国々、それもとりわけ1990年代の民主化より前の時代にあっては、クライエンテリズムは政治の場で広くみられた現象であり、クライエンテリズムという概念もアフリカ政治の現実面を記述するのによく使われてきた概念であったといえます。
ただ、記述的な側面にとどまるのではなく、「クライエンテリズムがあったことでこのような帰結が起こった」というように、クライエンテリズムを(なんらかの因果関係を導く独立変数とまでは言わないとしても)説明概念として使う発想は、アフリカ政治研究の分野ではあまり試みられてこなかったように感じます。
今回の論文と、そのもとになった学会報告では、クライエンテリズムの概念を使って政治のありようを実態的に記述するということではなく、この概念を使って政治のありようを論理的に説明するということを自分なりに挑戦してみることになりました。
その試みが説得的な結果として提示されたかどうかは読み手の方の感想をぜひお伺いしたいところなのですが、自分個人の研究史としては、この先の研究につなげるいくつかの論点を得られたような気がしています。
ひとつはサハラ以南アフリカ諸国の官僚制の評価という論点です。「パフォーマンス」という表現で語られる側面はもちろんのこと、その国なりの官僚育成の歴史を検討する必要もあると感じました。比較研究も面白そうです。歴史的な条件を共有する旧仏語圏アフリカ諸国の間でも大きな個性の差がありそうです。
それから、1960〜80年代の政治体制のありようについての再検討も、いろいろな再発見が見込めそうだと感じました。サハラ以南アフリカ諸国は1960年代から本格的に独立を遂げていくわけですが、独立の波と共に盛り上がったこれらの新興独立国への学術的な関心は、クーデタや政変や強権化が相次ぐ現実を前にほどなくしぼんでいくことになりました。サハラ以南アフリカ諸国の政治体制や国家のあり方に関して政治学的な関心が再び寄せられ始めたのは1980年代になってからのことです。とはいえ、その後まもなくサハラ以南アフリカ諸国は1990年代の民主化の激動期を迎えることになったので、研究関心の力点は民主化の成否に向けられていくことになりました。また、1990年代は多くのサハラ以南アフリカ諸国が紛争に直面した時代でもあり、研究関心はまた、紛争の推移とその後の平和構築と国家建設とにも向けられていくこととなりました。これはつまり、サハラ以南アフリカ諸国に対して、民主化や紛争を切り口とした研究関心が盛り上がる一方で、1990年代より前の時代に関する研究は相対的に手薄なまま残されたということを意味します。
今こそこの、サハラ以南アフリカにとっての激変期であった1990年代よりも前の時代に何があったかを、きちんと再検討しておく必要があるように感じられるのです。今回の論文ともとになった報告で焦点を当てたのは、まさにこの1960年代から1980年代の時期なのです。いまから見てちょうど半世紀ほど前の時期ということになりますが、ここがこれからの研究の一つの注目ポイントがあるのではないかと感じています。